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機関誌

機関誌内容一覧

2022年01月01日号

地域との関わりを大切にし新時代の農業後継者・社会人として通用する人間力の形成を目指す
岩手県立盛岡農業高等学校

 2015年に北海道で開催された第14回全共では全共初出場を果たした岩手県内で唯一乳牛の学習をできる「盛岡農業高等学校」。地元開催の東日本デイリーショウでは母娘でチャンピオンを獲得し、目覚ましい活躍の同校の取り組みについて、右京勝男先生に紹介していただいた。 本校は、岩手県で一番高い山である岩手山の麓に位置する滝沢市にあり、岩手県で一番の歴史を持つ学校です。明治12年に獣医学舎として開校し、昭和24年に岩手県立柏高等学校と校名が変わりました。その間数回の学科改編を経て、昭和27年には岩手県立盛岡農業高等学校となり、令和元年度には創立140周年を迎えました。現在は動物科学科、植物科学科、食品科学科、人間科学科、環境科学科の5学科からなり、生徒数は450名程度です。 校是は「勧農晨起」~農に学び 夢を耕し 未来をひらく~、校訓は「質実剛健」「自治協同」です。学校の教育目標は、「自然と向き合い命を育むことを基盤に据えた教育活動を通じて、生徒一人ひとりの心に豊かな人生の実現に繋がる真の強さと優しさを培う」と掲げ、日々人材の育成を実践しています。

盛岡農業高等学校校舎と岩手山

  • 動物当番実習により責任感を養う

    動物当番実習により責任感を養う

     動物科学科では1年生は農業の基礎・基本を学ぶため、週1回の総合実習(2時間)で植物科学科と連携し、大動物(乳牛・肉牛)、中小動物(豚・鶏・羊)、愛玩動物(犬)、作物、草花、野菜、果樹の7部門のローテーション実習を行っています。2~3年生は畜産の専門性を高めるために、週1回の総合実習(2時間)で大動物、中小動物、愛玩動物の3部門のローテーション実習を行っています。さらに、2年生は週1回、3年生は週2回の課題研究で、専攻班毎の専門的な学習を、また総合実習の時間割外時数で動物当番実習を行っています。動物科学科の3年生を当番長として、動物科学科と植物科学科の生徒4人体制での宿泊実習です。搾乳、給餌、除糞などの一般管理はもちろん、夜間分娩にも立ち会うこともあります。最初は戸惑いや不安感からなかなか体が動かず、指示待ちの状態ですが、経験を積んでいくことで、率先して動けるようになり、責任感を身につけることができます。現在は新型コロナウィルスの影響で宿泊実習を休止し、夕方の実習のみ実施しています。

共進会参加による 牛づくりと人づくり

大動物班は地域の共進会やブラック&ホワイトショウなど積極的に参加し、地域の人たちとの交流を大切にしています。普段の飼養管理はもちろんのこと、繁殖生理、調教技術、受精卵採取等を学びながら牛群改良に取り組んでいます。この牛群改良の成果は、毎年、4月を皮切りに県北BW、県BW、滝沢・雫石連合共進会、八幡平市共進会、岩中酪共進会、県共、花平BW、東日本デイリーショウと数々の共進会で発揮しています。またこれまで全国最大規模としては、平成27年10月23日から北海道安平町で開催された第14回全日本ホルスタイン共進会、平成30年4月13日から静岡県御殿場市で開催された第9回全日本ブラック&ホワイトショウの2つの共進会に出品しました。5年に1度のみのこれらの共進会は畜産業界のオリンピックといっても過言ではないほどのビッグイベントに値します。それぞれの共進会への出品に大きく関わった生徒と該当牛をご紹介します。

  • 第14回全共 出品牛:ラツキー ガール
    リードマン:八幡求夢

    第14回全共 出品牛:ラツキー ガール
    リードマン:八幡求夢

     この大会は口蹄疫による被害で10年ぶりに開催され、大きな盛り上がりを見せました。出品牛は葛巻町のラツキーファミリーで有名な藤岡牧場からの導入牛をヴァージンフラッシュし、採取した受精卵を本校で飼育していたホルスタインに移植して生産され、調教及び牛体手入れを重ね、県予選を突破し出品に至りました。第3部16ヶ月以上18ヶ月未満のクラスに出品し、出品頭数は30頭。優等賞6頭、1等賞9頭、2等賞15頭の振り分けで成績は2等賞5席。リードマン八幡君は「全共に先生と牛が大好きな仲間と出品出来てとても勉強になりました。北海道の地でいつか牛を引いてみたいと思っていたので嬉しくてたまりませんでした。共進会以外にも日々学習出来て、充実した3年間でした」。

    第14回全日本ホルスタイン共進会
    モリノウ DR セカンド ラツキー ガール ET
    父:マツカチエン (デーリィマン社提供)

  • 第9回B&W 出品牛:フアイナル
    リードマン:立花俊介

    第9回B&W 出品牛:フアイナル
    リードマン:立花俊介

     2018年セントラルジャパンホルスタインショウと共同開催となったこの大会は世界遺産富士山のもとに35都道府県206頭の牛が集まり、生体審査のみではなく、リードマン講習会、交流会、リードマンコンテストといったイベントも行われ、酪農家たちの絆を深める大会となりました。岩手県ホルスタイン改良同志会の皆様が若手酪農家及び本校に出品のチャンスを与えてくださり出品することが出来ました。冬があけてすぐの大きな共進会のため、いつもより牛のコンディションを整えるのが難しく、一緒に出品することになっている酪農家さんに相談しながら情報交換し、毎日リードマンの立花君は調教に励みました。第2部12ヶ月以上15ヶ月未満のクラスに出品し、出品頭数は26頭。成績は13席でした。立花君はリードマンコンテスト(高校3年以上20歳未満)にも出場し第5位となりました。この牛はここからの活躍が目覚ましく、県北BW、滝沢・雫石、県共、東日本でクラストップ、八幡平市、岩中酪ではジュニアチャンピオンまで獲得した素晴らしい牛です。リードマンの立花君は「全国のレベルの高さ、他県の高校の活動の成果を見てとても驚きました。出品5ヶ月前から準備を始め、5年に1度の大舞台に立てる事に感謝と緊張の毎日でした。先輩、先生、同志会の方々からアドバイス、励ましの言葉をいただき、リードマンコンテスト5位入賞を果たせました。今後も努力を忘れず挑戦し、畜産業界を盛り上げる事が出来る人材になります。本当にありがとうございました」。また共に牛の管理に励み、他牛のリードマンを務めた外谷君は「全国の舞台を経験し自分の知らない共進会の醍醐味を知れた気がします。これからも共進会に携わりたいと強く思いました」。卒業生達のこのコメントが動物科学科の全てを物語っていると確信しています。

    第9回全日本ブラック&ホワイトショウでの毛刈りの様子
    第9回全日本ブラック&ホワイトショウ リードマンコンテスト上位入賞者集合写真

    第9回全日本ブラック&ホワイトショウ
    モリノウ グランド フアイナル
    父:バイウエイ

     この他にもたくさん活躍した生徒や牛がいる中で平成30年10月27日に開催された東日本デイリーショウではモリノウ カナデイアン ロツキー(ジャージー)が見事シニアチャンピオン、令和元年10月25日に開催された東日本デイリーショウでは前述したロツキーの娘であるモリノウ セロ トーレがジュニアチャンピオンを獲得。本校始まって以来の快挙でありました。しかし、残念ながら昨年から今年度は新型コロナウィルスの影響で共進会はすべて開催されず、本校2度目の出品が叶ったかもしれない宮崎全共も中止となり、生徒と共に悔しい思いをしました。生徒たちの努力を形にしたいと思っていたところ、(株)野澤組様がジャパンカウフォトコンテストを企画してくださり、ぜひ応募しようということになりました。雪が積もっていく日々の中、牛体手入れ、毛刈りを施し、撮影が終わった後の達成感はこれまで努力してきた生徒たちにとって感慨深いものがあったと思います。結果はモリノウ ドリーム ラヴアーが2歳ジュニアクラスで4席という嬉しいものとなりました。写真での生徒たちの笑顔が物語っています。「牛づくりは人づくり」を体現してくれた生徒たちに感謝の思いです。

    2018東日本デイリーショウ
    モリノウ カナデイアン ロツキー
    父:ガン (デーリィマン社提供)

    フォトコンテスト大動物乳牛改良チーム
  • 県内唯一 乳牛を学習する農業高校

    県内唯一 乳牛を学習する農業高校

     県内の農業高校で乳牛の学習をできるのは本校だけですが、入学してくる生徒は非農家が多くなっています。その中で畜産業を志す者、そうでない者それぞれがクラスメイトになり、命の誕生、育成、出荷、加工といった生産・流通過程を学び、畜産業の魅力を味わい、そして発信。その魅力を仲間が感じ、もっと学習を深めたいという意欲につなげていく。まさに後継者と理解者が同時に育っているということではないでしょうか。
     牛づくりは人づくり。
     畜産県岩手の誇りを胸に盛農の挑戦はまだまだ続きます。
     最後に、スマート農業がどんどん普及していく世の中で作業の省略化、効率化が著しく進んでいます。それらによって生み出された時間を何に使うのか。生徒と共に自問自答しながら教育活動に邁進していきたいと思っています。そして、1日でも早く新型コロナウィルスの終息を迎え、皆様方のたくさんの笑顔と笑い声が行き交う世に戻ってほしいと心から願っております。

謹賀新年

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