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機関誌

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平成21年1月1日


平成21年1月1日
「家族や仲間に感謝」

〜中部日本共進会で喜びの大臣賞〜
昨年11月に愛知県で開催された第11回中部日本ホルスタイン共進会で見事、未経産部門の最高位に輝き、農林水産大臣賞を受賞した三重県鈴鹿市の瓜生牧場。今や三重県内の酪農をリーダーとして活躍する若き3代目、瓜生典寛さん(33)に受賞の喜びとこれまでの酪農の道のり、新年への抱負と、平成22年に北海道で開催される第13回全日本ホルスタイン共進会に向けての意気込みを語っていただいた。
乳量1万キロで安定
瓜生典寛さんは、昨年の第11回中部日本ホルスタイン共進会の未経産(生後20〜23月齢)クラスに出品したNYデザインアカシア(平18・11・30生、父ゴールドウイン)が、この部の名誉賞と最終審査では未経産部門の最高位、農林水産大臣賞を獲得した。また、2歳級でも優等賞2席に入賞するなど優秀な成績を収めた。
「出品牛を選ぶ段階から多くの方々の良きアドバイスをいただいことや、現場では多くのスタッフ、多くの関係者の方々からの指導や応援のお陰でこの大きな賞をいただくことができました。本当に感謝しています。そして大臣賞を多くの方々と一緒に喜べたことがすごくうれしいです」と、喜びと感謝の言葉を述べた。
就農時の悪戦苦闘
瓜生牧場は、典寛さんと由美さん夫婦、両親の和郎さんと君代さん、そして昨春に誕生した麻桜(まお)ちゃんの5人家族だ。現在は、由美さんが育児に専念のため、牛舎作業は典寛さんと両親の三人が従事している。
現在の飼養牛規模は、経産牛が50頭、育成牛が約30頭(すべて自家育成)であり、最近1年間の牛群検定成績によれば、経産牛1頭あたり年間乳量は1万167キロ、平均乳脂率、3.59%、乳蛋白質率3.21%、無脂固形分率8.75%で、ここ数年は安定的に高い泌乳能力を維持している。
酪農の歴史は、戦後間もなく祖父の故藤市さんから始まり、父和郎さんが基盤を固めた。
典寛さんは地元の農業高校を卒業して岡山県の中国四国酪農大学校に進学した。学生時代の実習先の牧場では県共に出品する牛の洗浄や調教を手伝い、共進会にも興味を持った。人工授精師の免許を取得して、平成6年に就農した。
典寛さんが就農したのを機に、飼養規模を拡大し、牛群審査も受検するなど乳牛改良に取り組み始めた。泌乳能力の向上にも努めて、一時期は経産牛牛1頭あたり年間乳量が1万1千キロ台まで増加したが、その代償として繁殖性が低下した。
試行錯誤の末、現在では平均乳量1万キロ、健康で繁殖も安定した飼いやすい牛群になった。
「当時は、輸入受精卵や高価な精液を多く利用して、改良のスピードを上げるために牛群の更新時期を速めたりしました。父親とも意見が衝突し、家族にも心配をかけるほど改良に熱中しました。その結果、乳量は飛躍的に増加したけれど、事故が多発して、多くの優秀な牛をダメ倒してしまいました。事故による淘汰が少なかったらもっといい牛群になっていたはず」と当時の悪戦苦闘ぶりを謙遜に反省している。
恵まれぬ大地がバネに
水田と住宅地の境界にある瓜生牧場は、決して酪農に恵まれた立地ではない。飼料の確保と糞尿処理は都府県の多くの酪農家が抱える問題である。輸入飼料価格が高騰する中、このようなハンディをどのように克服しているかを尋ねた。
瓜生牧場では、近隣の稲作農家に堆肥を提供しており、その代わりに敷料としてモミ殻を譲ってもらっている。秋口には1週間足らずで1年分の敷料が集まるとのことだ。
飼料面ではできる輸入飼料に依存しないために、数年前から地元で作られた稲のホールクロップサイレージを利用している。現在では、イネ科飼料の半分を地元由来の飼料で賄っており、「地元の資源」の有効活用にも大いに役立っている。
共進会と経営両立
瓜生牧場は、地元の共進会では毎年欠かさず出品し、多くのチャンピオン牛を輩出している。
共進会を盛り上げるために、典寛さんは自ら、ほかの出品牛の毛刈りなどを指導したり、共進会に必要な機材を購入している。由美さんも差し入れや祝賀会の準備など夫婦で地元県の共進会を支えている。
しかし、「酪農の楽しさはショウだけでない。毎日接する牛舎に優れた牛がいるからこそ」と典寛さんは語る。
近くには酪農家が少ないため、共進会に出品することで牛群のレベルを知ることや、飼養技術や色々な情報を得ることができる。また、上位入賞することで毎日の生活に張り合いも出てくる。しかしながら、酪農経営には安定して搾乳ができる牛群の存在が不可欠だ。エサだけに頼るのではなく牛群レベルの底上げが重要だと考えている。
「そのためには遺伝的な改良が必要。優れた血統、血液によって安定した成績を残すファミリーを作ることが大切だと考えている。血統登録は改良の基本であり、全頭実施している」と。
交配種雄牛の選定は、経営安定のために泌乳能力を重視しており、体型重視の精液はあまり利用していない。牛群検定情報は、種雄牛の選定や前産次の状態を確認する上で有効に利用している。
多くの仲間と全共参加を
2009年、新しい年への抱負は「酪農経営の安定のために、目先の乳牛改良よりもしっかりとした基礎牛を作りたい」と慎重な考えだ。その1つとして、最近、優秀な血統を求めて北海道から基礎牛を導入した。その牛からの受精卵移植によって牛群のレベルアップを図っているところだ。
典寛さんはこれまで、千葉、岡山、栃木全共に3回出品している。北海道で2010年に行われる第13回全共への意気込みを尋ねると、「是非とも出品したい。全共開催からの月数を逆算して、今から出品牛を選抜しているが、受精卵で生産した牛に期待している。県全体で盛り上げていき、一人でも多くの仲間と一緒に参加したい」と熱く応えてくれた。
農林水産大臣賞を受賞して、勢いのある三重県の若きリーダー、瓜生典寛さんご家族の、今後ますますの活躍を期待したい。

平成21年1月1日
「忍耐と英気養う年!?」

新年おめでとうございます。
昨年は、中国とアメリカに「してやられた」1年だった。中国はアジアで20年ぶりとなる北京オリンピックを成功させた一方で、冷凍餃子への農薬混入や粉ミルクなどへのメラミン混入事件は「何でもあり?」の側面を覗かせた。
原油価格の高騰とアメリカでのバイオエタノール生産強化策は、特に畜産農家にこれまで例を見ない経営危機を及ぼした。さらに、アメリカの金融危機は世界中に伝染し、日本でも多くの企業が倒産、従業員の大量解雇という悲惨な経済情勢を生み出した。
また、「食の安全・安心」に反して、船場吉兆や飛騨牛肉、愛知産うなぎ、事故米など相次ぐ産地・賞味期限の偽装は呆れるばかりだ。
良質牛乳を生産供給してきた酪農界は、乳価の若干の値上げや緊急対策はあったものの、飼料や肥料、資材価格の高騰には追いつけず、大幅な収益源を強いられて廃業する農家も多かった。
08年を表わす漢字は「変」だったが、「苦」か「狂」が相応しかったかもしれない。
今年の干支は己丑(つちのとうし)、酪農に相応しいウシ年である。己は草木が繁茂し、形が整然としている様、丑は芽が種子の内部で忍耐強く鋭気を養い、活動の時期を待っている様子を意味する。
やがて必ずやって来る黎明を信じて、どうか健康に留意して、牛を大事に飼っていただきたいものである。