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平成29年01月01日


平成29年01月01日牛一番を目標に〜日々の実践に取り組むKAHSの若者達〜 −熊本県立菊池農業高等学校−
一昨年の北海道全共では高校生の活躍とみなぎる若さが会場を賑わした。その中で、県共から実力で全共に2頭出品させ、優秀な成績を収めた「熊本県立菊池農業高等学校」の取り組みについて、同校の高橋明徳教諭に紹介していただいた。
概要と沿革
熊本県は、世界農業遺産に指定された阿蘇山を中心に温暖な気候で畜産や施設園芸などを中心に農業が盛んな地域です。中でも、酪農・肉牛は全国4位の飼養頭数でその他にもトマトやミカン、カスミソウなどの栽培が盛んです。
本校は、熊本県北東部に位置する菊池市に所在し、今年で創立113年を迎える歴史と伝統ある農業高校です。本校の綱領に「向学創造、敬愛協同、勤労剛健」を掲げ、「助けあい」「励ましあい」「志高く」の熊本の心を基本理念に農業経営者育成高校として「メイクヒストリー自分に挑戦!」をスローガンに頑張っています。
設置学科は、農業科・園芸科・畜産科学科・食品化学科・生活文化科の5学科で現在511人の生徒が在籍しています。
中でも、農業科・園芸科・畜産科学科は自営者養成学科として、1年次の「花房寮」における2泊3日の教育入寮を皮切りに2週間ごとの研修入寮を3年次まで繰り返し、家畜の管理や作物・野菜・花等の栽培管理を通して実践教育を積み重ねて、地域の農業振興を担う人材育成を目指しています。
また、最近は寮が完備していることから、馬術部、牛部、スポーツドッグ部などの特色ある部活動を希望して、東京をはじめ阪神地区や九州各県から生徒が集まってきています。
畜産科
畜産科は27年前に新しい畜産の産業としての可能性を開拓することを目標に学科改変に取り組み、スポーツとしての乗用馬専攻や実験・伴侶動物専攻を導入し、畜産科学科としてスタートし現在に至っています。
畜産科学科は、現在乳用牛40頭、肉用牛20頭、豚120頭、産卵鶏200羽の他、犬、馬、鹿、猪を飼養し、9.6haの圃場で飼料作物を栽培しています。また、家畜は当番生が毎日の飼養管理(搾乳、給餌、哺乳、除糞)を行い、全学年から数名ずつ2週間入寮し、朝・夕の当番実習を行うことで基本的生活習慣を身につけ、協同する精神と自ら考え行動する力を養っています。
大家畜(牛)、中家畜・野生動物(豚、猪・鹿)、実験・伴侶動物(犬、鶏)、乗用馬の実習を通して命の大切さや動物への感謝の気持ちを学び、2年生の3学期から4つの部門に分かれて専攻学習を行っています。
後継者の育成を教育の柱に
畜産科学科には、現在118名の生徒のうち、畜産農家の子弟が19名います。県内の就農支援事業として年間2回程度研修会が計画され、夏は1泊2日で県内優秀農家の「見学研修会」が行われています。
本校独自の事業としては、年間3回ほど様々な研修会が企画され、今年度は優秀農業経営者(卒業生)の講演会や農家視察研修会を行いました。また、学科・学年を問わず、後継者、進学者、新規就農希望者を対象に、県流通センターでの枝肉格付けや畜産まつり(肉牛・馬共進会)の見学を行いました。
現在、3年生の進路状況を見ると卒業後即就農が2名、進学後就農が2名、農業関係の牧場等への就職が内定している生徒が6名で、畜産後継者がクラス全体の25%を占めて、彼らの育成が畜産科学科の教育の柱となっています。
「酪農の夢」コンクール最優秀賞
後継者教育の一環として全農「酪農の夢」コンクールに応募しています。今年度は畜産科学科3年の益崎裕朗君が「地域の酪農リーダーを目指して」と題して応募した作品が、全国136作品中、最優秀賞を受賞しました。昨年9月に東京で開かれた表彰式では、皆さんの前で酪農後継者としての自分の夢を堂々と発表し、たくさんの拍手をいただきました。
大家畜専攻班
大家畜専攻班は、2年生の3学期から専攻毎に分かれて学習に取り組み、現在は3年生17名を中心にしたグループ学習を行っています。
いくつか例を挙げると、第1に乳牛・肉牛における繁殖成績改善を目指してオブシンク(定時人工授精法)の効果検証試験に取り組み、その一環として牛の臓器実習で子宮や卵巣の観察をはじめ、人工授精の練習なども行っています。
第2に乳房炎の発生を予防するために、その原因菌調査やラクトコーダーによる搾乳技術の検証、フリーバーン牛舎におけるバーク堆肥の細菌検査などに総合的に取り組んでいます。
第3に毎月実施している牛群検定成績の有効利用を目指したデータの分析と代謝プロファイルテストを活用しての飼養管理法の検討を行っています。
第4に和牛肥育牛を使ったビタミンAコントロール試験など、地元の家畜保健衛生所や各関係機関の協力を得て取り組んでいます。
牛舎は13年にフリーバーン牛舎を移転し、翌年にヘリングボーンミルキングパーラーへ全面改装を行い、給餌・搾乳・哺乳といった一般管理実習を毎日当番制で行っています。日々の管理実習では、除糞や体尺・体重測定、除角や去勢、発情確認や分娩介助など全員で行っています。また日常的に、人工授精の補助や、牧草のサイレージ調整など飼料作物の栽培管理にも取り組んでいます。
共進会への取り組み
本校の共進会への取り組みの歴史は、75年頃から当時の先生方や先輩方が地元の町の共進会に出品したのがスタートで、現在に至るまでその伝統は守られ、取り組みは続いています。
特に04年になると、生徒の自主活動の一環として「牛部」が同好会として発足し、07年には部に昇格しました。今年で創部11年目を迎え、現在、部員は3年生8人、2年生8人、1年生11人、合計27人で頑張っていて、部員の中には畜産科学科以外の生徒もいます。「牛の事を一番に考えて、人がベストを尽くす」を念頭に置き、背中に「牛一番」と書かれたツナギのユニフォームを着て毎日の活動に取り組んでいます。
活動内容は、ラウンダーによる運動、リードマン練習・調教、毛刈りなどで、3年生を中心に牛の見方、引き方や立たせ方・共進会マナーなども下級生に教えながら生徒が自主的に行動し、牛のコンディションの管理を行っています。また、毛刈りは上級生や共進会場で地域の酪農家の方々から教えて頂き、少しずつ上達していきます。
約1ヶ月前から共進会に向けて牛の最終調整を行います。地域の酪農家の方々と繋がりを持つことで意欲が湧き、上級生が下級生を指導することで責任感と自主性を養っています。生徒が自ら学び貴重な経験ができる共進会活動は、生徒を大きく成長させる場だと感じています。その甲斐あって14年には県共と九州共進会で経産牛グランドチャンピオンを受賞し、翌年15年の全共にむけて弾みをつけることができました。

全共出品「KAHSシンデレラウインドブルックミサコET」(父:ウインドブルック)2013.12.3生
本校初の全共出場
15年の北海道全共出場を決める県共には5頭を出品し、未経産5部と経産12部の2頭が首席に選ばれた時は、これまでの先生方の牛群改良をはじめ、地域の方々のご支援、牛部の先輩方と在校生が毎日牛の管理をしてきた努力が実った瞬間でもありました。但し、出品する未経産牛の立ち幅が少し狭いことが課題でした。そこで生徒たちが考えたのが、後肢の飛節の間にボールを挟み1時間程立たせた運動と調教でした。その結果立ち幅も改善でき、ベストな状態で全共に出品できたのも、生徒たちの日頃の管理・観察から発想が生まれ、何よりも牛のために努力を惜しまなかったからだと感じています。
全共には、乳牛2頭と生徒5名、職員2名で参加しました。酪農の本拠地北海道は牛のレベルの高さはもちろんのこと、広大な土地と共進会会場の施設・設備に生徒は目を輝かせていました。緊張感漂う、夢の大舞台で審査に臨み、審査員にアピールする生徒の眼差しは生き生きとし、リードマンとして最善を尽くした姿は圧巻でした。結果は、5部1等賞1席・12部1等賞5席と素晴らしい成績を残せた事に大きな喜びを感じています。チーム熊本のワーカーとして1日中牛の管理に気を配り、酪農家の方々から全共の極意とも言える内容をご指導して頂いたことで、人としても成長できたことは貴重な経験となりました。
地域との交流
菊池市の皆さんとの交流を深めようと、学校では様々なイベントに取り組んでいます。地元小学生を対象にしたJA菊池主催の「まんまキッズスクール」は40人ほどを対象に本高を主会場にして田植えから稲刈りまでの農作業体験や搾乳・乗馬の体験、ふれあい動物園などを行っています。
また、昨年は牛部の生徒とCOOP九州75名の消費者の方々と体験搾乳やバター作りなどを通じて交流を深めました。ほかに畜産科学科では、毎月下旬の日曜日に地元菊池市の商店街で「軽トラ朝市」が開催されており、新鮮卵の直売会や犬を連れての「ふれあいセラピー」にも実験・伴侶動物専攻で取り組んでいます。
今後の目標
今後の目標として、西日本有数の酪農地帯である熊本で共進会や日々のプロジェクト活動を通じて地域の酪農家の方や関係機関と協力し、酪農後継者の育成を目標に取り組んでいきます。
また、共進会においては、これまでの先輩方の取り組みと伝統を引き継ぎ、上位入賞を目指して日々努力していきます。特に今年は秋に全日本ブラック&ホワイトショウ、20年の東京五輪の年には隣県宮崎で九州全共が開催されるので、このビッグイベントへの出場が大きな目標です。
最後に、日頃よりアドバイスを頂いています泗水町乳牛改良同志会の皆様をはじめ、地域の皆様の温かいご指導とご協力に深く感謝申し上げます。昨年、熊本は「平成28年熊本地震」により大きな被害を被り、牛舎の損壊や大切な牛を失われた方々もいます。全国の皆様からの温かい励ましや支援をいただき心から感謝申し上げます。
震災からの復興もまだまだ時間がかかりますが、これからも「がんばろう熊本」を胸に、皆で協力し牛群改良を重ね「熊本の復活」を目指して、一生懸命取り組んでいきます。

平成28年度熊本県ベビーショウ集合写真(2016.9.12)