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機関誌

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2021年08月20日号

新規牛「ブーテイー」1位 2021−8月国内種雄牛評価成績

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     (独)家畜改良センターは8月3日、乳用種雄牛評価成績2021-8月評価を公表した。今回の評価成績では精液供給可能種雄牛は69頭、うち新規牛は13頭であった。

    トップは初登場「ブーテイー」

     今回の総合指数(NTP)1位はフアインデールホツトブーテイーET(アルタホツトロツド×バリスト)が1位となった。初登場ながら産乳成分、体型形質共に優れた、長命連産効果の高い種雄牛である。
     2位は前回1位だったピユアソウルビジヨンSIハウルET(シルバー×マツカチエン)。NTPでみれば1位ブーテイーとは僅差で、泌乳形質や耐久性成分に優れている。
     3位は前回と同じくグリーンエンジエルラークレストJCスターET(ジエイシー×フエイスブツク)。産乳成分は表中2位、疾病繁殖成分は表中1位である。

    進む世代交代

     今回の公表で新たに選抜された種雄牛は1位ブーテイーから30位クオーツまでの13頭で、NTP上位40頭の3割以上を占めている。
     トップ40中の父牛別ではシルバーの息子牛が4頭、スノー、パワーボールの息子牛がそれぞれ3頭。母方祖父牛別ではブツケムが5頭、スーダンが4頭となっている。これまでの公表で母方祖父牛の多くを占めていたスーパーステイシヨンは2頭だった。
     多くの優秀な新規牛の台頭に伴い、世代交代も進んでいる。今後も更なる優れた種雄牛の誕生に期待したい。
     また今回の公表より、新たな評価形質として暑熱耐性が加わった。詳細については次の記事で紹介している。

SNP検査でわかる 遺伝的不良形質情報提供開始 2021年8月より

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     ハプロタイプから推測される遺伝子型情報の提供については、生産現場からの強い要望が挙がっていましたが、日本ホル協としても酪農経営に資するとの考えから、関係団体と協議を重ね検討を進めてきました。今般、令和3年7月8日に開催された乳用牛改良推進会議の中でこの情報提供について協議が行われ、正式に承認されました。ついては、本年8月より、SNP検査申込者および所有者を対象に情報提供を開始いたします。

    ハプロタイプとは

     ハプロタイプとは、同一染色体上のある領域に存在する複数のSNPの組み合わせを指します。遺伝性疾患を引き起こす原因遺伝子や毛色に関連する遺伝子などは両親から遺伝しますが、それらの近傍にあるSNPやハプロタイプも同様に両親から伝達します。したがって、遺伝子型検査を行わなくても、ハプロタイプをマーカーとして利用することにより原因遺伝子を保因しているかをある程度の精度で推測することが可能です。

    5種類の遺伝的不良形質を提供

     今回提供される遺伝子型情報は、妊娠期間中に胚死滅をもたらすHH1からHH5の5種類の遺伝的不良形質です。これらはいずれも劣性遺伝様式の不良形質であり、原因遺伝子を保因する個体同士の交配から25%の確率で発症します(表1)。また、保因牛と非保因牛の交配から保因牛が生まれる確率は50%です。日本ホル協が実施した事前調査では、2020年に生まれた雌牛の保因頻度は0.8%から6.6%の範囲にあり、HH5が最も高い傾向にありました(図1)。これらの不良形質をヘテロの状態で保因していたとしても乳生産や繁殖性に悪影響はなく、牛群から保因個体を排除する必要はありません。しかし、保因雌牛については、供用種雄牛の保因状況に配慮しながら交配を実施することが望ましいと考えられます。

    指定遺伝的不良形質との違いは何か

     生産者の経済的損失が大きいと判断された遺伝性疾患は、乳用牛遺伝的不良形質専門委員会が指定遺伝的不良形質(例えば、BLADや牛コレステロール代謝異常症)に指定し、国内の乳牛集団から原因遺伝子を排除する措置がとられてきました。HH1やHH2などの胚死滅が生じる遺伝性疾患はこれに含まれていませんが、その理由は指定遺伝的不良形質の定義である「特徴的な外見的・臨床的症状を示す」に該当しないためです。しかしながら、胚死滅をもたらす不良形質を発症すれば、生産者の不利益となることは紛れもない事実ですので、先に述べた通り、保因雌牛の交配には注意が必要でしょう。乳用牛遺伝的不良形質専門委員会では、これらを調査形質として扱い、今後も継続したモニタリングが行われるものと考えられます。

    ゲノミック評価情報に付加して情報提供

     本情報は日本ホル協に蓄積されているSNPデータを利用・調査し、生産者へ還元するものです。情報提供は、雄牛について「雄牛ゲノミック評価情報」、未経産を含む雌牛について「牛群遺伝情報Web」に情報を付加して行います。「牛群遺伝情報Web」では、SNP未検査の在籍雌牛の遺伝評価情報も閲覧可能ですが、本情報の提供はGPIまたはGEBVによってゲノミック評価された個体のみである点にご注意ください。

    本情報を利用する上での注意点

     ハプロタイプに基づく本情報は高い推測精度ではありますが、前述したように、原因遺伝子の保因/非保因を100%保証するものではありません。したがって、その確定には遺伝子型検査が必要であることをご注意ください。胚死滅をもたらす遺伝的不良形質については、HH1のみ遺伝子型検査が現在可能ですが、HH2からHH7についても早期に検査を実施できるよう(一社)家畜改良事業団と協議しているところです。
     なお、日本ホル協では、今回の情報提供に含まれていないその他の遺伝的不良形質を含む遺伝因子についても、情報提供の準備を鋭意進めているところです。

夏に強い牛はどの牛? 暑熱耐性評価開始

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     (独)家畜改良センターは2021―8月評価から新たに暑熱耐性の遺伝的能力評価を開始すると発表した。これは主要国の中で2017年に開始したオーストラリアに次いで2番目の早さである。
     暑熱耐性は各牛群の最寄りの気象観測所等で計測された1日ごとの平均気温(℃)と平均湿度(%)から計算した温湿度指数(THI)の変化に対する乳量と体細胞スコアの変動値を暑熱ストレスの指標として評価値が求められる。
     暑熱耐性の評価値が高い牛はTHIが増加、つまり気温や湿度が上昇しても乳量は低下しにくく、体細胞スコアは増えにくい牛であり、逆に暑熱耐性の評価値が低い牛は乳量が低下しやすく、体細胞スコアは増えやすい牛となる。具体的には評価値が1ポイント変わると乳量と体細胞スコアにおいて1日当たり1頭につき、10円ほどの所得の差が生じる。
     暑熱耐性が高いと乳量の低下の影響を受けにくくなる一方で、そもそもの泌乳能力が高い個体は相対的に暑熱ストレスの影響による乳量の低下量が多くなるため、暑熱耐性と泌乳能力には好ましくない関係があることから、暑熱耐性が高いと泌乳能力が低くなる傾向がある。また、体細胞スコアや初産娘牛受胎率・空胎日数とは好ましい関係にあり、暑熱耐性が高いと体細胞スコアが低く、繁殖性が良い傾向がある。
     このように、暑熱耐性の評価値を利用して遺伝的に改良していくことにより、暑熱環境下での乳量の低下、繁殖性の改善など、経済的に影響の大きい形質に対する暑熱ストレスの影響を幅広く改善することが期待できる。しかし、暑熱耐性に関する遺伝率は泌乳形質と比較すると高くないことから、交配種雄牛や後継牛を選定するとき、暑熱耐性のみを重視するのではなく、同じような泌乳能力の牛を比較する際の補足情報として暑熱耐性を確認する、といった利用方法が望ましいと考えられる。

検定成績優秀牛 -都府県令和3年7月証明分F偏差値-