2018年01月01日号
日本一の牛群を目指して ~EX牛のべ9回、7頭が獲得~
-京都府立農芸高等学校-
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前回の全共では高校の中で最多の3頭の出品を果たした「京都府立農芸高等学校」は、成績でも第2部で優等3席を獲得。これは都府県3番目の好成績であった。あれから2年数か月を経過した同校の取り組みについて、新宮由子先生に紹介していただいた。
沿革と概要
京都府は南北に長く、北部は日本海側気候、中央部は内陸性気候、南部は太平洋側気候に属し、それぞれに特色があります。京野菜等の伝統野菜の栽培が盛んであり、「京ブランド」の付加価値をつける形での農業が活性化してきています。
本校は、京都府の中央部の南丹(なんたん)市に所在しています。1983年に創立され、昨年35周年を迎えた比較的新しい京都府唯一の農業専門高校です。校訓に「質実剛健」を掲げ、真面目で飾り気がなく心身ともに健康で、精神的にも肉体的にも「あしこし」の強い生徒を育てるという意味が込められています。社会人基礎力を身につけた農業やその関連分野で活躍できる職業人を育成するために高い専門性を追求する学校を目指しています。
1年次は農業学科群として農業の基礎的な学習を行い、2年次から農産バイオ科と環境緑地科の選択をし、専門的な学習を行います。農産バイオ科には作物・野菜・草花・畜産・植物バイオ・動物バイオの6コース、環境緑地科には造園・農業土木コースがあります。1学年110名定員で全校生徒は約300人です。本校男子寮は、現在約140名が寮生活を送り、1年生男子は義務入寮となっています。畜産コース・動物バイオコース
本校では、現在乳用牛33頭、肉用牛9頭、産卵鶏32羽を飼養しており、畜産コース・動物バイオコースの合計33名の生徒が管理を行っています。また、放課後や休日の管理は畜産部が行います。
畜産コースでは、家畜の飼養管理技術や特性について学習し、近年では課題研究として、京都ブランド豚(京都ポーク、京丹波ポーク)の肥育にも取り組んでいます。
動物バイオコースでは、動物の遺伝資源の活用について、バイテクの技術を用いてアプローチし、農芸ブランド和牛の生産を目指しています。日本学校農業クラブ(FFJ)の家畜審査競技会(肉用牛の部)にも参加し、今年度は全国大会で第4位に入賞しました。
畜産・動物バイオコースの寮生は、火曜日から金曜日まで朝6時前から1時間程度の早朝実習を行い、搾乳や給餌などの管理作業をしています。酪農教育ファーム活動
本校は中央酪農会議の酪農教育ファーム認証をされています。今年度は、7月に京都市内で開催された食農イベント「JAキッズファームパーク京都」と、11月に大阪府で開催された酪農理解醸成イベント「近畿酪農フェスタ2017」に参加し、近畿地区の酪農教育ファームの方々と共に、模型を用いた搾乳体験やバター作り体験を行い、生徒はイベント開始直後緊張した面持ちでしたが、だんだんといきいきした表情で取り組むようになりました。一般の方や小さな子供に教える立場となったことで、知識不足や伝える難しさを知り、今後はより一層学習を深めていかなくてはならないと感じたようでした。
本校は毎年11月に、学校を開放し一般の方に農畜産物を販売するとともに、各コースの学習内容や生徒の取り組みを展示・紹介する「農芸祭」を行っています。毎年2千名以上の来場者がある一大イベントです。今年度の農芸祭では、校外でのイベント参加の経験を活かした搾乳体験等、大盛況のイベントとなりました。今回の搾乳体験に参加してくれた子供たちから、未来の農芸高校生が誕生することを期待しています。近畿酪農フェスタ2017で子供と接する生徒
牛群改良
体型審査では、14年7月に初めてEXを獲得しました。その後3年半で、EX牛をのべ9回、7頭(うち自家産6頭)にまで増やしています。
最高得点は91点で、この牛の娘牛もEXを獲得し二代EXとなりました。16年度の体型審査の平均得点は87点(受検率72.2%)で、審査頭数10~29頭の部で都府県2位となり、10年度から7年連続で審査成績優秀牛群表彰を受けています。都府県1位を目指して、牛群改良を進め、日々の管理を徹底的に行っていきたいと思います。
体型だけでなく、乳量・乳質にもこだわり、16年には牛乳の品質と生産現場の清潔さ・安全性を評価され、近畿乳販連からHigh Quality Milk Awardを受賞しました。
より効率良く牛群改良を進めるために、優良牛を年1頭程度導入しています。導入牛は本牛の活躍はもちろんのこと、娘牛を残し新たなファミリーとして繁栄しています。また、近年では家畜改良事業団の協力で体外受精卵を作成しています。今後は、本校でOPUを実施していただく予定です。畜産部
農業クラブ専門部として、乳牛の飼養管理を学ぶ「畜産部」があります。本校の農業クラブ専門部は「プロと競いプロに学ぶ!」をテーマに、畜産部の他に6つの部が活動し、技能五輪全国大会での入賞や、日本菊花全国大会で国務大臣金融担当大臣賞を受賞するなど、知識と技術を確実に身につけ、全国で活躍しています。
畜産部の創部は、栃木全共直前の04年です。「365日の徹底した飼養管理」をテーマに掲げ、良い牛を作ることを目標に、土日祝日も関係なく毎日登校し活動しています。部員数は現在5名で、うち4名は非農家出身です。畜産部員は授業以外の時間、牛にかかりっきりで過ごしています。昼休みなどにも牛舎に来て牛の観察や哺乳を行い、放課後は搾乳などの管理作業を行います。また、子牛が生まれると畜産部員が1人担当となり、離乳まで責任をもって管理をします。子牛に哺乳する畜産部員
共進会への取り組み
畜産部の活動の一環として、共進会への出品を行っています。京都府だけでなく、他県や地区のショウにも出品させていただいています。近年は、中部日本B&Wショウ(15年)および中国地区B&Wショウ(16年)でジュニア(J)チャンピオン(C)、中国地区B&Wショウでリザーブ(R)JC(17年)を獲得しました。また、中国地区B&Wショウにおいては、現在3年連続で最優秀出品高校賞を受賞しています。
共進会の1ヶ月ほど前から、リーディング練習開始です。牛洗いは普段から毎日水洗いをしていますが、リーディング練習開始と同時期からブラシやシャンプーを使用して牛洗いを行います。経験が浅く、技術も未熟な高校生が酪農家の方と勝負をするには、相当な努力が必要です。先輩から後輩へ、きめ細やかな指導が行われます。また指導する際には、審査の妨げにならないよう、リーディング技術だけでなく出品時のマナーも徹底させるよう心がけています。毛刈りは兵庫県の酪農家の方に毎年講習に来ていただき、スキルアップを図っています。
出品牛の成績や生徒自身のリーディング技術を磨くことも大切ですが、様々な共進会に参加させていただき、他校の生徒や各地の酪農家の方との交流を持つことで、刺激を受け、視野を広げることができるかけがえのない機会です。また、ハイレベルな牛をたくさん見ることにより、牛を見る目を磨いてほしいと考えています。4度目の全共
初めての全共出品は、90年の熊本全共です。その後、00年の岡山全共、05年の栃木全共に出品しましたが、結果はすべて二等賞でした。栃木全共では第3部に出品し最下位となり、非常に悔しさの残る全共となりました。同時に、牛群改良を進め、雪辱を晴らすために奮起するきっかけとなった大会でもありました。その後、哺乳期間を見直し、哺乳期から育成期での発育をよくすることで、体高・体長やフレームの改良を進め、徐々に共進会で結果を残せるようになりました。
4度目の全共出品は15年の第14回全日本ホルスタイン共進会北海道大会です。自家産牛を3頭(経産2頭、未経産1頭)出品しました。生徒9名、教員3名が北海道に渡り、9日間出品に向けて管理を行いました。会場到着後、早々に荷物の搬出や牛の受け入れ準備に取りかかり、早く牛を休ませるために素早く行動する生徒の姿は、とても頼もしく感じました。結果は、第2部でグロリーオーサ フアーストモデル キヨウト ET号が優等賞3席を獲得しました。これは出品高校26校中最も上位です。また、リードマンを務めた生徒は、高校生リードマンコンテスト(2年生の部)で第2位に入賞しました。経験したことのないほどの大きな舞台で、緊張やプレッシャーに負けず、堂々とリードマンを務めあげた生徒の姿は忘れられません。しかし、この結果はリードマンの生徒の努力だけでは成しえないものです。会場で出品に向けて管理を行った生徒や、学校に残り管理作業を行ってくれた生徒、牛群改良の基礎を作り上げてくれたOBの方々、たくさんの人の努力が実った瞬間でした。10年の歳月を経て、北海道のリングで栃木全共のリベンジを果たすことができました。また、次回の宮崎全共に出品できれば5度目の全共出品となるので、農業高校初の多回出品者表彰を目指して、牛群改良を続けていきたいと思います。
フアーストモデル号は、京都府農林水産畜産センターに協力いただき、北海道全共への出品を見据え採卵を行い作成した受精卵から産まれた牛です。このような結果を納められたのは、関係機関・地元の酪農家の皆様や、本校OB、また京都農芸生をかわいがってくださる全国の皆様のご支援のおかげであると感じています。この場を借りてお礼申し上げます。グロリーオーサ フアーストモデル キヨウト ET
農業高校初生涯10万キロ達成
16年に、HEF ロイター アス号が農業高校初となる生涯乳量10万キロを達成しました。ロイター アス号は06年に北海道から23ヶ月齢で導入し、07年2月の泌乳開始から6乳期目での10万キロ達成です。6乳期終了時点での生涯乳量は11万4626㌔で、都府県の記録では71位に位置しています。生徒が継続的にきめ細やかな管理を行い、日々を積み重ねたゆえの記録です。
また、未経産時には北海道総合畜産共進会(06年)でRJCに輝いており、乳量と好体型を兼ね備えた牛と言えます。北海道全共で優等賞3席を獲得したフアーストモデル号はロイター アス号の娘です。体型の良さは娘牛にもしっかりと受け継がれています。
現在は乾乳中で6月に7産目を分娩予定です。本校で最高齢の牛ということもあり、生徒に非常に可愛がられています。さらに記録を伸ばし、次の検定証明では府内生涯乳量記録1位と、都府県生涯乳量順位を上げてくれると期待しています。生涯乳量10万キロを達成したロイター アス号と畜産部員
今後の目標
共進会では、4月に開催される第9回全日本ブラックアンドホワイトショウ並びに2018セントラルジャパンホルスタインショウへの出品・上位入賞、また20年の宮崎全共を見据えた牛作りを行っていきたいと考えています。冠名の「グロリーオーサ」は、栄光の作者という意味です。冠名にふさわしい牛群となるように、先輩方が大切に管理してきた牛を、後輩たちがしっかりと受け継ぎ努力し続けます。
また、安全で衛生管理の徹底された環境で実習を行い、食の安全性が確保された他に誇れる畜産物を生産するために、HACCPとJ‐GAPの認証を目指して取り組んでいます。
日頃の学習や共進会、酪農教育ファームとしての活動を通して、生徒の専門性やコミュニケーション能力を高め、実践力や強い責任感と精神力を持った人材の育成を目指し、酪農家や酪農関係機関への就職者を1人でも多く出すことで、酪農振興の一助となれたらと思います。