2021年01月01日号
酪農から学ぶもの 酪農を通して学ぶもの
千葉県立茂原樟陽高等学校
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2015年に開催された北海道全共で全共初出場を果たし、2018年の第9回全日本ブラックアンドホワイトショウでは最優秀学校賞を獲得した「千葉県立茂原樟陽高等学校」。酪農発祥の地、千葉県の中央に位置する同校の取り組みについて、麻生友也先生に紹介していただいた。
千葉県は酪農発祥の地として知られ、その歴史は古く、戦国時代の里見氏が軍用馬育成のため、嶺岡山(みねおかやま)に牧場を開いたのが始まりです。
江戸時代の中ごろ(享保13年=1728)、8代将軍徳川吉宗はインド産の白牛を3頭輸入し、嶺岡牧で飼育しました。嶺岡牧ではこの白牛の数を増やすとともに搾った牛乳で「白牛酪」というバターに似た乳製品を作り、将軍家に献上品として差し出されていました。その後、寛政(1789〜1801)の頃には70余頭に繁殖したと伝えられています。
日本初の牛乳屋さんも千葉県民で、江戸末期に横浜在住のオランダ人から乳牛の飼育・搾乳・処理技術を学び、当時は外国人に販売し、日本の市乳業界の元祖となりました。これらが千葉県が日本酪農の発祥の地といわれている由縁です(酪農のさとWebサイトより)。
現在もそうした伝統が受け継がれ、千葉県内の酪農家の戸数は約480戸(令和元年12月現在)あり、生乳生産額は全国4位で日本有数の酪農地帯です。このように、千葉県酪農は古くから営まれ、更に乳牛の改良に力を注ぎ、現在まで受け継がれています。畜産関係高等学校・千葉県酪農のさと位置図
明治に起因する農工学校
現在、千葉県には14校の農業関係高等学校があります。その中で乳牛を教材として畜産(酪農)教育を行っている学校は、旭農業高等学校、大網高等学校、安房拓心高等学校、そして本校を含めた4校であり、それぞれ共進会やブラックアンドホワイトショウに積極的に参加しています。
本校が所在する茂原市は、九十九里浜から10kmほど内陸に入った千葉県のほぼ中央に位置しています。本校の歴史は古く、明治30年に「県立千葉県簡易農学校」として創立、昭和23年に学制改革によって「千葉県立茂原農業高等学校」に改称、平成18年に隣接していた「千葉県立茂原工業高等学校」と統合し、現在の「千葉県立茂原樟陽高等学校」に至っています。
本校は、農業と工業の併設校であり、農業は3学科(農業科・食品科学科・土木造園科)、工業も3学科(電子機械科・電気科・環境化学科)の計6学科設置されており、「創る・育む・輝く」の校訓の基、「希望あふれる夢の創造」「豊かでたくましい心の育成」「みんなの力で輝く未来を」「開かれた学校体制の確立」を教育目標に、地域で貢献できる産業人の育成を行っています。緑豊かな校舎
生命をはぐぐみ 大切さを重んじる
農業教育について
現在、農業科は学年ごとに1クラス設置されています。1年次は、科目「農業と環境」「総合実習」などを中心に農業の導入的学習を行っています。2年次からは、草花・野菜・果樹・畜産の4部門に分かれ専門的に学習を展開し、3年次では2年次の部門を引き続き学習し専門性を深め、実践的に学習しています。在籍する生徒のほとんどは非農家の家庭の出身であり、農業後継者を育成するというよりも、農業を理解し協力できる生徒の育成を目指しています。また、農業教育を通して「生命を育み、大切さを重んじる」心を育てています。
畜産教育について
本校では現在、経産牛11頭・育成牛16頭の計27頭のホルスタイン種を飼育管理しています。畜産部門を選択した生徒は、乳牛の生理生態や飼育管理技術、飼養管理等を学んでいます。放課後実習では搾乳を中心に、個体毎の観察を怠ること無く行い、体調の変化や異常乳の早期発見を学習課題として取組んでいます。
自主的に乳牛の飼育を行い、共進会活動を行うのが「畜産部」です。畜産部は、畜産を学ぶ生徒や、畜産部門以外の生徒、学科を越えて活動する生徒がいます。
日々の活動は、乳牛の管理が主体ですが、共進会出場に向けた日々の調整を行い、共進会が近づくと毛刈りや資材の準備を行います。畜産部は、1人1人が責任を持ち、個々の役割を果たすとともに、みんなで協力して一つのことを成し遂げる場として有効な活動と位置づけています。畜産部の女子生徒たち
畜産部の活動の1コマ
心を豊かにする学びの場 -畜産部の共進会への挑戦-
本校の全日本ホルスタイン共進会への出場は、2015年に開催された北海道大会が初めてでした。また、2018年開催の第9回全日本ブラックアンドホワイトショウでは、最優秀学校賞をいただくことができました。これは、時代時代の生徒と先生方の活動が、今日まで脈々と継がれ続けてきた改良と管理技術があったからこその快挙と思います。
また、共進会活動は、生徒の様々な能力を体験的に育むことができる場だと思います。責任感、観察力、コミュニケーション能力、行動力、実行力、協調性など様々な力が育っています。学校だけでは参加することはできません。酪農家さんを始め関係各機関との連携や協力があって参加することができます。生徒は知らず知らずのうちに自ら考え、行動し、振り返り、協力し合う力を身につけています。産業としての酪農に携わっているのは、ほんの一端ですが、他では経験できないことを経験することができています。余談ですが、私たち教員は、生徒が他では経験できないことを体験させられる下地作りとフォローを今後も行います。
共進会やブラックアンドホワイトショウの活動は、生徒を心豊かにする学びの場であると思います。今後も共進会活動は、生徒の能力を育てることを目標に頑張り、その結果が出品牛の成績に繋がるよう努力してまいります。共進会では自らリードマンを務める
日々の手入れに余念がない
最優秀学校賞を獲得した第9回全日本ブラックアンドホワイトショウ
未来の酪農を担う人材育成を
酪農を学ぶ生徒のほとんどが「動物が好き」です。多くの生徒が動物が好きで、将来は動物関係の職業に就きたいと思っています。しかしその一方で、酪農関係に進みたいという生徒は残念ながら少数です。そんな中でも、毎年数名は、畜産関係の大学や専門学校に進学し、関連産業に従事しています。
本年度は、削蹄師を目指す女子生徒を1名、農業実習助手を目指す生徒を2名輩出することができます。いずれの生徒の家庭も酪農とは関係ありませんが、本校で学ぶ中で、もっと酪農に携わりたいという思いが育ったのだと思います。
今後も、後継者育成は基より、雇用就農、関連産業従事者の育成に努めていきます。搾乳器を取り付ける生徒
謹賀新年
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