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牛複合脊椎形成不全症(CVM)キャリアを
父または母方祖父とする検定牛についての調査結果

単一の劣性遺伝子によって
発現する不良形質の遺伝

牛複合脊椎形成不全症(CVM:Complex Vertebral Malformation)など多くの遺伝的不良形質は、常染色体上の単一座にある劣性遺伝子によって発現すると言われている。こうした不良形質は、

  • キャリア(不良遺伝子をヘテロの状態で持つ個体で本牛は正常)の種雄牛を交配した場 合にかならず発現するわけではない
  • キャリア同士の交配でキャリアでない個体が生まれることもある
  • 致死遺伝子であるため、無作為交配を実施した揚合にはその頻度は自然に減少することが知られている。
  • キャリア(不良遺伝子をヘテロの状態で持つ個体で本牛は正常)の種雄牛を交配した場 合にかならず発現するわけではない
  • キャリア同士の交配でキャリアでない個体が生まれることもある
  • 致死遺伝子であるため、無作為交配を実施した揚合にはその頻度は自然に減少することが知られている。

キャリア
×
ノンキャリア

Aa♂×AA♀→AA(ノンキャリア):Aa(キャリア)=1:1


キャリア
×
キャリア

Aa♂×Aa♀→AA(ノンキャリア):Aa(キャリア):aa(致死)=1:2:1

実際の乳用牛の交配では種雄牛に強い選抜がかけられており、経済的に優れた遺伝能力を持つ種雌牛の精液が大量に使われることから、その使われかたによって不良形質の遺伝子頻度は大きく変化する可能性がある。こうした事情から種雄牛を中心に、遺伝子レベルでの検査が実施されて公表されており、2002-Ⅱ乳用牛評価からは遺伝評価値と一緒にCVM検査の結果についても発表することになっている。

新たな遺伝的不良形質が発見された場合には、将来にわたってその遺伝子の頻度を下げてゆく必要があるが、その方策として最も簡単なのが、キャリアである種雄牛の完全排除である。しかしCVMのキャリアのように本牛は不良形質を発現せず、キャリアを交配しても必ずしも発現しない場合には、遺伝的に非常に優れたキャリアを排除することによる経済的損失も考慮しなければならない。こうした事情から、「肉牛の遺伝疾患に対する対応方針(平成13年8月)遺伝性疾患専門委員会」では、『劣性遺伝する遺伝性疾患において疾患遺伝子をへテロの状態で保有している雄牛についても「種畜として利用しない」とすべきではないか』という問いに対し、

疾病遺伝子をヘテロの状態で保有している雄牛については、本牛自体は正常であること、交配する雌牛を選択して後代を生産すれば遺伝性疾患の発生を抑制出来ることから種畜としての利用をすべて排除する必要はない。

という方針が示されている。

キャリアを完全に排除しなくとも、不良形質の遺伝子頻度を少しずつ下げてゆくことは理論的に可能である。そしてそのためには、遺伝子検査の結果や血縁情報を利用した分析を通じて遺伝子頻度が下がっているかどうかモニターしてゆくことが重要な対応のひとつになると考えられる。ここでは乳用牛の遺伝的不良形質である牛複合脊椎形成不全症(CVM)と牛白血球粘着性欠如症(BLAD:Bovine Leukocyte Adhesion Deficiency)を材料に、我が国の雌牛集団での状況を検証してみたいと思う。

牛複合脊椎形成不全症(CVM)キャリアを父または母方祖父(MGS)とする雌牛の現状

CVMについては海外の種確牛だけでなく国内の種確牛についても順次検査が進められている。そこでまず、CVMキャリアを父または母方祖父(MGS)とする雌牛の状況について、2002-Ⅱ乳用牛評価で用いた検定記録および登録情報と、2月25日現在で判明しているCVMの検査結果から調査した。

まず、父およびMGSが判明している現検定牛(現在検定に加入している雌牛、未経産牛を含む)について、父およびMGSがキャリアであるかどうか調査した結果を表1に示した。父、MGSの両方の検査結果が判明している40,955頭中、父、MGSともキャリアでないものは90.7%に達している(表1)。

表1 現検定牛の父および母方祖父に関するCVM調査結果

    母方祖父 
CVTV不明
CV79(0.2%)2,279(5.6%)9,69112,049
TV1,443(3.5%)37,154(90.7%)179,056217,653
不明99024,142254,480279,612
2,51263,575443,227509,314

表2 現検定牛の父牛に関するCVM調査結果

頭数
CV13,321(5.3%)
TV238,601(94.7%)
n/a325,335
577,257

また、最低限父が判明しているものに範囲を広げると、父牛の検査結果が判明してしている251,922頭(43.6%)中、父がキャリアである検定牛の割合は5.3%となっている(表2)。

牛白血球粘着性欠如症
(BLAD:Bovine Leukocyte Adhesion Deficiency)
に関する追跡詞査

90年代はじめに発見された牛白血球粘着性欠如症(BLAD:Bovine Leukocyte Adhesion Deficiency)は常染色体上の単一座にある劣性遺伝子によって発症し、子牛は免疫不全により生後数ヶ月で死亡することからBLADの牛は後代を残すことはないと考えられ、CVMと共通点が多い。そこで比較の対象としてBLADについても、CVM同様の調査を実施した。なおBLADについては今日まで、キャリアである種雄牛をなるべく排除する対策がとれられてきている。

まず父、MGSとも判明している現検定牛を対象に、BLADについて表1と同様の集計を行った(表3)。父、母方祖父ともキャリアかどうか判明している検定牛は373,336頭(73%)に達しており、そのなかで父、母方祖父ともキャリアでないものは83.8%となっている。

表3 現検定牛の父および母方祖父に関するBLAD調査結果

    母方祖父 
CVTV不明
CV1,713(0.5%)14,440(3.9%)8,36424,517
TV44,082(11.8%)313,101(83.8%)88,210445,393
不明2,76025,75910,36338,882
48,555353,300106,937508,792

また、検定牛(現在検定中でないものを含む)の生年別に、父牛・母方祖父がキャリアであるものの割合がどのように推移したかを調査した。これによると1991年生まれの検定牛では、父牛、母方祖父ともBLADフリーのものは67%、父牛、母方祖父ともキャリアであるものは0.9%、父牛がBLADキャリアであるものは24%存在していた。こうした結果からcvMのキャリアを父またはMGSとして持つ現検定牛の割合は、BLAD発見当時、父またはMGSがBLADキャリアであった雌牛の割合と比べて低いと考えられる。

遭伝子頻度推定の試み

将来的にはCVMについてもBLAD同様、ほとんどの種雄牛についてキャリアかどうかが判明すると思われるが、可能ならば検査結果と血縁情報等を総合的に利用して、我が国雌牛集団での不良遺伝子の頻度の推定値を求めた方が、遺伝子頻度をモニターしてゆく上で望ましい。

ここではまだ文献調査等が不十分のため、具体的な方法を紹介することはできないが、母方祖母(MGD)世代の遺伝子頻度をA:a=1-p:pとして、父(S)及び母方祖父(MGS)がキャリアか否かによりキャリアとなる確率を計算した結果を整理したのでご紹介したいと思う。

表4 CVMキャリアの可能性

  MGS 
CVTV
CV(4-2p)/(7-4p)2/(4-2p)
TV1/(4-2p)(2-p)/2

おわりに

今回調査した結果から、新たに見つかった遺伝的不良形質である牛複合脊椎形成不全症(CVM)は、発見当時の牛白血球粘着性欠如症(BLAD)とくらべて深刻であるとは考えにくく、CVMに対してもBLADの時と同様の方法で、キャリアである種雄牛を徐々に減らしてゆくことで十分対応可能と考えられる。具体的な種雌牛の利用対策としては、

  • CVMキャリアを父牛または母方祖父とする雌牛には、CVMキャリアの種雄牛の利用を避ける
  • CVMキャリアの検定済種堆牛で、遺伝的能力が特に優れているものについては そのリスクを理解し、交配雌牛に注意しながら利用して差し支えない(実際にBLADでは、欧州のAI事業体がリスクを取って優れた遺伝子を残している)
  • これから検定にかける候補種雄牛については、遺伝子頻度が下がる将来使われることを考慮し、CVMキャリアでないもののみを後代検定にかける

といったことが考えられる。また将来にわたって、個体識別、登録、検査結果などの情報を横断的に利用し、不良形質の遺伝子頻度を下げるような交配が行われているかを定期的にモニターすることも必要であると思われる。

遺伝的な不良形質は動物が生まれながらに持っているものであり、その多くは劣性遺伝子によって発現すると言われている。このため、不良遺伝子をホモに持つ可能性を下げる意味でも、近交係数を一定以下に保つような交配が行われている。乳用牛では今のところBLAD、CVMの2つ経度しか大きな問題となる遺伝疾患は見つかっておらず、キャリアの種雌牛を少しずつ少なくする対応で問題ないと思われる。

しかし遺伝的不良形質についての研究がさらに進めば今後、新たな遺伝疾患が次々発見さることも十分考えられ、そうした場合には経済的な損失も考慮し、キャリアである種雄牛もコントロールしながら使わざるを得なくなることも想定される。そうした際には、責任ある者が利用可能なあらゆる情報を横断的に用いて不良形質の遺伝子に関する分析を行い、その結果を公表してゆくことで、生産者がリスクを理解しながら不良形質の遺伝子頻度を少しずつ下げてゆくことが出来るよう環境を整えることが今以上に重要になると思われる。

少し見方を変えると、今回得た調査結果は今日まで着実に、牛群検定および登録を実施してきた成果であるといえる。しかし、我が国の検定参加率や登録実施率は諸外国と比較して決して高くないことを考えると、不良形質をコントロールしてその発現を押さえ、経済的な効果を最大限上げるような交配を考える手段がないケースも少なくないと思われる点は非常に残念である。蓄積された情報が活用されることで、新たな遺伝的不良形質に対する取り組みが単なる疾病対策を越え、個体識別、牛群検定、登録といった事業の重要性を改めて認識する機会となれば幸いである。

検査結果情報入手元

この報告で利用した牛複合脊椎形成不全症(CVM)の検査結果は平成14年2月25日現在のものであり、我が国の種雄牛の検査結果については(社)家畜改良事業団にご協力をいただいている。また、海外の種雌牛については、以下のウエブページより情報を入手している。